カテゴリ:創作小説 『聖夜』( 1 )

「聖夜」

「ユキ。 このまま仕事一筋で 人生 貫いちゃうつもり?」

ガラス越しの向こうに、腕を組み寄り添い 寒空の下でもそれを感じさせない笑みのカップルの姿を
見るともなしに目で追っていた有希に、友人の真由美は問い掛けた。

「うん・・・・・。 どうするかな・・・・・。」 
カップの中の褐色の液体の苦味が、身体に浸み込んでいった。
店内はクリスマスソングが、途切れることなく流れている。


大学を卒業してから、飲み会だ、食事会だ、クリスマスだから…と、理由など言いながら、
気兼ねない女友達同士で集まったりしてきた。
それぞれが就職してから 普段会えない分、話は尽きず、その日は盛り上がったりしたものだ。

「だれがぁ、クリスマスは恋人と過ごせーと、決めたんよ―――! ・・・女同士いいじゃん。」
なんて、お互い言ってたのは最初の内。
次第に「今年はごめんして。」と一人欠け、二人欠け・・・、
だけど いつでも会いたい時に会おうと、この仲間だけは連絡取れる間柄で居た。

その内に、ある年は 一人欠席しても、次の年は まるで交替の様に別の子が来れなかったり、来れるようになったり。
早くに結婚し子育てを始めた者もいる。故郷に帰って直ぐに出て来れない者もいる。


「おケイは、今は介護で大変なんだって・・・? 美由紀は子供が中・高と受験かぁ。」
真由美は言葉を続けた。
「静ちゃんは、今とっても幸せそうね。高齢出産を心配してたけど、すくすく元気に育ってるって言ってたよ。
暫くは出席できないけど、また呼んで、って。」

皆、それぞれの生活の中で生きてるんだな・・・、大変な思いをしている人もいて・・・


――だけど、家族が居る。――


そんな言葉が、ふと有希の頭をよぎる。
「・・・アラフォーなんて・・・、簡単に言われてるけど、なんだかね・・・。」



「今年のお正月は実家に帰るんでしょ?」
その問い掛けに、有希はちょっと首を傾げた。

遠く田舎に実家がある有希。
まだ20代の内は親戚などから「結婚しないのか?」と言われ、見合いも勧められたりしたが、全て断って来た。
理由は・・・「仕事を生甲斐としている事」。
「でもね、本当は妥協で結婚したくなかったの。」

結婚すれば、ましてや田舎に帰れば、「仕事」を諦める事になる。
その相手も、本当に気に入ったなら 兎も角、妥協では決めたくない。
20代後半から30代、我武者羅に“仕事一筋に”頑張って来たし、頑張って来れた。

今じゃ、上に立つ者としての責任はあるものの、いい部下にも恵まれて、
自分の時間のゆとりも取れる。

「さあ、どうしようかな・・・。」
「ご両親に、会って来なさいよー。ずっと待ってみえるよ、きっと。」

「お元気な内にさ。」と真由美は にっこりして付け加えた。

真由美は、母一人、娘一人の母子家庭だった。
結婚して、直ぐに女の子に恵まれて・・・。 
幸せな家庭を築いていく筈だった。
・・・かなちゃんが、まだ悲しいという事が解らないくらいの、とても小さい頃。
真由美の懸命な看病も空しく、その若い“パパ”の命は、帰らない人となった。

「ねぇ、今夜は飲みに行かない? もう今は ゆっくりできるんでしょ?」
真由美は、「う・・・・ん・・・。」と残念そうに、
「ごめんねー。今夜は、かなが カレシと一緒に3人で食事しようって、約束してるんだ。」
「え~っ? かなちゃん、もうそんな年頃なんだー。・・・そうか、そんなに経つんだ。」

大切な人にそっくりの、忘れ形見の「かな」のことが嬉しくてたまらない真由美は、
再婚する事もなくずっと一人で育ててきた。
「だけどさ、これからは 私も もう一度、花咲かすかもよ!」
ペロッと舌出して、冗談ぽく笑ってた・・・。




「じゃ、また連絡して。」と、店から出た二人は暫く歩いた後、
交差点で軽く手を振って別れた。


――「お元気な内にさ。」――


そう言った時の真由美の顔を思い出し、ふと空を見上げた有希。

都会の空は、星が見える事はない。
周りが明る過ぎるから・・・、今は、イルミの光で自分が溺れている様だ。


そんな夜空に、チラッと白い点が見えたりした。。
「あ・・・」
粉雪が少しちらついてた様だった。

その夜空を通して、故郷の山並みや空を想い巡らせていた。


――雪・・・。 降ってるだろうな・・・。 積ってるかな・・・。――



ひと息、溜め息ついて、誰も待っていないマンションへ帰ろうと歩きだした。





と、そこへ小さな女の子、歳は2歳くらいだろうか?
有希の前まで走って来たかと思うと、すってんと転んでしまった。
自分にぶつかったんじゃないけど、周りのイルミネーションが綺麗でちょっと興奮してたんだろう。
よろめいてしまったようだった。

「いたぁーい。 ふえーん。」
ベソかいてる女の子を起こしてあげると、その子は小さな涙粒をポロンと零しながら、口元をへの字にしながら、
有希の方を見ていた。
「痛くないよ。もう大丈夫よ。頭は打ってないね、よかった・・。もう大丈夫だから。」
転んだ時、地面にあたった部分の砂を払いながら 摩ってあげ、
小さな手を自分の手で そっと握ってあげると、その子は少し微笑んでた。

女の子を呼ぶ母親らしき声がすると、その子はその声の方へと駆けて行った。
向こうで会釈してる女の人が見えた。 有希も軽く会釈をした。

すると、女の子は思い出したように、また有希の傍までやって来て、
小さな手と腕を有希の方へと差し出した。
有希は「何かしら?どうしたの?」と、もう一度 しゃがんでみた。

今度は、さっきよりも 満面の笑みで、ニコーッ!と笑いながら・・・
「あ・り・が・と・-!」

女の子は そう伝え、そして・・・有希の首にしがみ付いたかと思うと、
可愛い小さな花の様なくちびるを 頬につけてきた。

「バイバイー。 あィがとー!」
そう言いながら、小さい手を振りながらまた母親の元へ戻って行った。






有希は、女の子を見送って・・・・・その辺りは憶えているものの、
どうやって マンションまで帰りついたのだろう。
慣れてしまっている街だから、自然と帰りついたのだろうが・・・。



女の子のkiss。
まるで、天使が舞い降りてkissの贈り物・・・? クリスマスだから? ・・・違う。

そのkissは・・・頬でもなく、唇でもなく、口角のほんの直ぐ横だった。
有希はその時、デ・ジャヴに似たものを感じていた。


有希の・・・遥か彼方の記憶にある・・・First kiss・・・そこと同じ場所。






恥ずかしがり屋の彼で・・・、こちらは心決めてじっと待って・・・
なのに、頬とも唇とも言えない所に受けた、First kiss・・・。

結局、それからも「恋人らしい」と言えるキスは交際してる間、ずっと無かった。
いつも同じ場所。
「好きだよ。」とか「愛してるよ。」なんて甘い言葉も言わなかった恥かしがり屋。






灯りもつけず、窓から遠くの夜景を眺めている時、その光が急にぼやけた。

涙が止まらない・・・・・。



ずっと封印してきたんだろうか。
忘れようとしていたのは、彼の事じゃなく、あの別れ際・・・なのだ・・・。
彼の事は忘れられないからこそ・・・、他の誰かを愛そうと思えなかった・・・。






「あ・・・い・・・・・・」
別れ際。
微かに聴こえた・・・筈の・・声、言葉。
“アイシテル”
その言葉だと、思い続けていた。


「あ・・・い・・・・・・」
一瞬、指先に力が籠ったかと思うと・・・するりと 離れていった手・・・。







計器の音。
落ち着かない何かの音の中。
頭も顔も身体も、包帯が巻かれてて。
「ユキ・・・に・・・、あい・・・たい・・・。」辛うじての その言葉によって会えた。
「ユキちゃん、会ってあげて・・・。」


じっと包帯の奥から見つめながら、その目は微笑んでる様だった。


「あ・・・い・・・・・・」

それが、やっと聴こえた最期の言葉だった。。













有希は・・・そのまま窓ガラスに寄り掛って、肩を震わせていた・・・。



結婚しなかったのは、愛する人を見つけようとしなかったのは、
「彼」を忘れたくない為。 ・・・無意識にも。


だけど、故郷に帰りづらいと思ったのは、世間の煩わしさというよりも、
“悲しい記憶”に押し潰されるのが怖かったから・・・。
・・・・・交通事故で・・・いとも簡単に・・・命が終わってしまう・・・。




勿論、仕事に生甲斐を持っていたのも事実。

きっと、自分らしく生きようと したかったんだ・・・。







――随分・・・、随分と歳月は流れてしまった・・・ね。――



有希は、涙を拭いながら・・・もう一度 窓の外、今度は夜空を見上げた。


耳元で、さっきの「女の子」の声がした様な気がした。

『あ・り・が・と・-!』




その声を思い出しながら、一緒に呟いてみた。

「あ・・・り・・・が・・・と・・・・・」




その途端、有希はハッとした。



『あ・・・い・・・・・・』


「愛してる」だと思ってた その言葉は、・・・確かに「あ、い」とも聴こえたが、

微かに・・・舌が上顎を滑る様に・・・。
「り? だったの? 『ありがとう』・・・だったの?!」


「え?何故? 『ありがとう』なの?・・・・・」












「ありがとうと、言いたかったんだね・・・。貴方の心、今 解ったよー。」




偶然だったけど、同じ場所への天使の様な「女の子」からのkiss。











今夜は聖夜。。







あの子も同じだろう。
今頃は、子供たちはサンタクロースが来てくれることを夢見てる。









「ありがとう・・・!」









見えない星空の・・・、もっと向こうの星に向かって、もう一度。






「ありがとう! 来てくれたんだ・・・。」










『・・・・・ありがとう・・・・・。』















※ 「あとがき」を 添えました。

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by sino-kotoha | 2012-12-24 22:55 | 創作小説 『聖夜』 | Comments(2)