「カメのおんがえし」 2 ~こころ~

暖かい風が 吹いていた。
青い空にうっすらと絹の様な雲が ふんわり羽織ってる様だった。。
凪の波音が聴こえている。。。

青年は舟を出して、漁に出ていた。
カメは、その小舟を目を細めながら見守っていた。。



・・・今朝のこと。。
「おはよ~。 おぉ~、もう起きてたのか~?」
カメは、その声に反応する様に首を向けた。
〝約束通りに来てくれた!〟
心が お互い読めると思い、会話も自然と弾んだ。
否、弾むと思ったのは青年の方だろう。 
まだ カメは何処となく おどおどとしていた。

少しずつ・・・話を聞く。 少し・・・話をする。 屈託のない様な笑顔、笑い声。
少しずつではあるが、カメも応える様になっていった。



小舟を見ながら・・・、
〝安心できる。。 怖くない。。 シ・ン・ジ・テ・イ・イ・カ・モ。。。〟
人を人間を信じるのを怖れていた。信じたくない、信じられない・・・と思っていた。

カメは 心の中から何かが溢れそうになる感覚を必死で受け止めようとしていた。
それが どういう感情なのか、まだ混乱している。。
只、冷たい 冷たい・・・そして暗い底に沈んでいた筈だったのに、今は違う、と
それだけは、解った様な気がしていた。。

また明日も来てくれる、そして話をしてくれる。
自分の話も 聞いてくれる。
理解出来る。 理解して貰える。


         ・・・・・信じられる・・・・・


「今日は、結構 獲れたよ。」
そう言って青年は、カメの前に海藻や小さな魚を置いた。
「自分で海で捕った方がいいけどな。。 先ずは、栄養付けて!生きるんだぞ!」


         ・・・・・生きる事、許された!・・・・・


心の奥の奥で、呟いた。。


青年は一瞬 覗きこんだと思ったが、そのまま獲った魚を持って、
家で待つ両親の為や 町に少し売りに行けるからと言い、
またな!と 軽く手を振って、そのままカメの背中・・・甲羅をさすってから
帰って行った。



カメは、ゆっくり ゆっくりと 少しずつ、口に食みながら、
時々 じっと陸の方を見ながら、
〝明日も また会えるね。 ここで 待っていたいよ。。〟

餌をくれるからじゃない。 
言葉を掛けてくれる、・・それもあるが、・・・「存在」。
そこに「存在」している、自分の存在を許してくれる。。


だから・・・。


早く元気になって、何とか動けるように!


「嬉しいんだ!」

嬉しいから、何かを伝えたかった。。




         ・・・・・・『オ・ン・ガ・エ・シ』・・・・・・




カメは、「うん」と頷いた。。










あれから少し うとうとした様だ。。
鼻先に ひんやりした風と・・・その事より、何よりも甲羅から伝わってくる
〝懐かしい温かさ〟に気づいて、目が醒めた。


朝の内しか話せなかったからとか、漁をしていて すぐ帰ったからとか、
いろんな事を言い続けている 青年の傍へと、カメは 少~し近づいてみた。

足を踏ん張りながら、ほんの少し。。

「お?動けるようになったか。」
・・・カメは 青年の顔を暗闇の中で一生懸命見ようとしていた。
「・・・心と心で交信? できるんだもんな。言いたい事、思ってる事、解るんだろ?」
〝・・・わかる。。 読むんじゃない。。 伝わってくる。。〟
ふ~んと頷きながら青年は、それでも悪い気はしないという顔で続けた。
「だからかもな~。 何でも判ってしまう、けど、何でも判って貰える。
心から・・・、心で話が出来る。。。 いいなぁ。。。」
友人は居る、だけど、ここまで話したこと無いな、とも・・・聴こえた。
「何ていうか・・、話が したかったんだ~。 此処に来たかった。」

カメは、同じだと思った。
明日も来てくれるかな?話しできるかな?・・・お互い同じ気持ちを持つという事が、
不思議と感じながらも、安心と思える。。




今夜は いい星空だな~と 青年は見上げた、その時、

「あっ!」 
〝あっ!〟

長く尾を引きながら、ひとつの流れ星が走っていった。。



「願い事なんて、無理だよ~。 一瞬だもんなぁ。。」





願い事・・・、早く元気になって、恩返しもしたい、
そして 喜んで貰って、安心させたい。


そして、そして、ずっと、「話」を していたい。



こんなに沢山の願い事・・・、もっと沢山の流れ星がないと・・・だめなのかなぁ。。





カメは、気づかれない様に そっと思った。。。
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by sino-kotoha | 2013-08-10 09:08 | 創作小説 『カメのおんがえし』 | Comments(0)